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 二十四日目。


(ついに……ついにお父様に会える!)


 王宮勤めを始めてから初めての連休。わたしは大きな戦果と共に、実家への凱旋を予定していた。

 この三週間ほどの間に撮り溜めた念写や、殿下の行動録なんかをリュックサックに詰め込み、意気揚々と城を後にする。重たい荷物とは裏腹に、足取りは軽やかだ。



(ん? あれは……?)


 だけどその時、城の裏門から人目を忍ぶ様にして、一台の馬車が出掛けて行くのが見えた。普段出入りしているものより質素な見た目の、なんだか怪しい馬車だ。


(一体どなたが乗っているんだろう?)


 王城の警備は厳しいし、許可を得ているんだろうってことは分かる。
 それでも、わざわざ裏門から出入りする理由や、質素な馬車を使う理由が分からない。そこはかとなく興味を惹かれつつも、徒歩で馬車をつけるのは難しい。気を取り直して城の正門へと向かった。



 王都は沢山の人で賑わっていた。活気に満ちた市場。国内外から集まった様々な品が並んでいて、見ているだけでワクワクする。

 本当はわたしも一応貴族の端くれだし、あんまり市井を歩くのは良くないんだろう。でも、記者として民衆の生の声を聴くことは何より大事なことだ。城の中でじっとしていても、良い記事は一つも書けやしない。
 ……まあ、これまで一度も記事を採用されたこと、無いんだけどね!

 石畳を歩きながら、辺りを見回す。父は今頃、王都にあるタウンハウスで、わたしの帰りを今か今かと待ちわびているはずだ。


 実は、わたしの出仕に一番反対していたのは父だった。雑誌への寄稿なんて必要ない。細々と事業を続けられればそれで良いからと言って、わたしを実家に留めようとしていた。


(でも、雑誌が売れたらお父様の懐も潤うし)


 親族筋の発売する雑誌を刷っているのがわたしの父だ。雑誌の売り上げが伸びれば、当然父の収入も増える。そうすれば領地の立て直しも容易いし、わたしが結婚する時の持参金にも困らないと思う。良いこと尽くしだ。