(正直、探るのは好きだけど、探られるのはあんまり好きじゃない)


 殿下の問い掛けは、表面的なようでいて、案外鋭い。わたしが信用に足る人間なのか、見定めているように思える。
 実際問題、やましいことしかないため、早くお暇したいなぁなんて思っていた所、殿下は思いがけないことを口にした。


「そういえば、マイリーは良縁を求めているんだってね」


 一瞬、何を言われたのか理解できずに、わたしは目をパチクリさせる。数秒後、わたしは自分が何故侍女になったのか、その『設定』を思い出した。


「えっ……えぇ。わたしももう16歳ですし、領地に引きこもっていても出会いはありませんし。出来れば宮殿に出仕をしている間に良い人を見つけたいなぁって」


 正直言ってそんな気、これっぽっちもないけど、採用試験でもホーク様にも同じ内容を伝えてしまっている。わたしは無理やり、夢見るような表情を浮かべた。


「そうか。……うん、そうだね。良い人と出会えると良いね」


 殿下はそう言って小さく笑う。やましさから、全身に変な汗が流れ出た。何とか誤魔化しきれたらしい。心から安堵した。


「あぁ……でも本当は、もう出会えているのかもしれないよ?」


 そう言って殿下は、ニコニコ笑いながら身を乗り出す。思わぬことに目をぱちくりさせていると、殿下はすすっとご自身を指さした。


「俺とか、ね」

「…………殿下、それ、問題発言です」

(この人、本当に王子としての自覚があるんだろうか⁉)


 もしも、今の発言のお相手がわたしじゃなかったら、間違いなくすっぱ抜いてた。最有力婚約者候補としてスクープしていた。それ程の爆弾発言だというのに。


(何でよりによってわたしなのよ!)


 悔しさのあまり、こっそりと地団太を踏む。
 殿下がわたしを揶揄っているだけだって分かっているから、残念ながら記事にはならない。本当に本当に口惜しい。けど。


(この人、案外自分からネタを振りまいてくれるタイプかもしれない)
 

 今後の取材に向けて気合が増したのは言うまでも無かった。