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 十日目。
 そろそろ家が恋しくなってきた。だけど、ちゃんとした休みが貰えるのは残念ながら二週間後。それまではこの王宮を出ることができない。

 ついでに言うと、手紙も全て検閲に回されるため、ここでの出来事はまだ、誰にも報告できていない。

 婚約者選びのためのお茶会のことも、執務室にいた女性のことも、全てわたしの取材ノートに記された秘密だ。


 その後の調べで、執務室にいた女性は、殿下の秘書をしているヴィヴィアン様という女性だと分かった。侯爵家の御令嬢で、殿下とも昔から仲が良く、いつ婚約に発展してもおかしくない御方なのだという。


(だったら早く婚約しちゃいなよ!)


 そんなことを思うけど、実際は婚約に発展する前に記事を出さなければ、スクープにはならない。早まって誤った内容の記事を出せば、雑誌の信用問題になるし、そもそも王室の怒りを買ってしまうのは宜しくない。

 あくまで王室のイメージアップに繋がり、尚且つ部数アップが見込める。そんな内容にしなければならないし、記事を書いたのがわたしだとバレないようにしなきゃならない。

 ついでに言えば、ヴィヴィアン様がお相手だと意外性に欠けるため、その辺りも微妙だったりする。



「マイリー、ちょっと良い?」


 その時、わたしの私室の戸が鳴った。今のわたしは休憩時間で、仕事の割振りはない。不思議に思いつつ顔を出すと、そこには先輩のジャスミンがいた。


「あのね、殿下がお茶をしたいから、マイリーを呼んできてほしいって仰るの」

「…………はぁ」


 あんまり理解できなかったけど、取り敢えず承諾の意味を込めて返事をする。


(詰所の人手が足りてないのかな?)


 そんなことを考えながら仕事用の服に手を伸ばすと、ジャスミンは「違う違う」と口にして、小さく首を横に振った。


「そうじゃなくて、マイリーに話し相手になって欲しいんだって」

「………………はい?」


 既に日が暮れて、殿下は夕食を待っていらっしゃる時間の筈。そんな時間に敢えてお茶をするのも謎だけど、わざわざわたしなんかを話し相手に指名する理由がよく分からない。

 とはいえ、お断りできるわけもなく、わたしは急いで支度をする。お仕着せではダメだというので、実家から持参したドレスを身に着けた。