「失礼いたします」


 お茶と茶菓子の準備を整え、殿下の執務室の戸を叩く。許可を貰って中に入ると、そこには殿下とホーク様、それから見知らぬ女性が一人いた。
 その瞬間、記者としてのわたしの欲が、物凄い勢いで疼きだす。


(あれはどこの誰⁉ 殿下の婚約者候補⁉ でもでも、あの日のお茶会にはいなかった!)


 一気に溢れ出す疑問符を呑み込みつつ、わたしは何食わぬ顔でお茶の準備を進めていく。
 とはいえ、さり気なく『念写』をすることは忘れなかった。結果、上手いこと殿下と女性の二人を視界に収めることができたので、満足している。
 まぁ、誰が写したか一目瞭然だから、スクープ時には使えないんだけど。


「ありがとう。珍しく煮詰まってしまってね」

「いえ、とんでもございません」


 ジャスミンはそう言って朗らかに笑う。
 普段殿下は、あまり休憩をなさらないらしい。だから、執務中にお茶を所望されたのも、実に数週間ぶりなんだとか。


(もっと積極的に休憩なされば良いのに)


 わたしからすれば、殿下の生活を覗く機会は一分一秒でも多い方がありがたい。しかも、殿下一人の時ではなく、他の人と一緒にいる時の方が絶対的に良いのだ。


(くそぅ。もう退室しないといけないなんて)


 しかし、必要以上の長居は禁物。お茶を淹れ終わったらさっさと退室せねばならない。

 この間見知らぬ女性は、ニコニコと穏やかに微笑みながら、わたしのことを見つめていた。


(お願いだから、笑ってないで、なんか会話して! これじゃ記事にならないから!)


 必死で念を送っても、残念ながら殿下もホーク様も、その女性も、口を開く気はないらしい。苦々しい思いを抱えつつ、殿下の執務室を後にした。