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 五日目。
 少しずつ、王宮暮らしも慣れてきた。
 結局、朝のシフトから外されることは無く、わたしは毎朝、殿下の着替えを目の当たりにしている。


「えぇ? 慣れるわけないわよ、あんな身体」


 思い切って先輩に聞いてみたら、意外や意外。ケラケラ笑いながら、そんな答えが返って来た。


「へっ⁉ でもでも、皆さん平気そうな顔で着替えを手伝っていらっしゃって……」

「そりゃぁマイリーみたいに顔を逸らすほどじゃないけど、ドキドキするに決まってるじゃない。……まぁ、私の場合は殿下の方が年下だし、役得って思うぐらいで済むようにはなったけどね」


 ケラケラと笑いつつ、先輩の一人であるジャスミンがそんなことを口にする。


(そうか……そういうものなのかなぁ)


 いつかはわたしも、殿下のあのキラキラしさに慣れる日が来るのだろうか。

 もしも将来、彼と結婚する人に向けて記事を書くならば、『どうぞお気をつけて』と忠告してあげたい。多分大変な目に合うから。ドキドキして、ヤバいと思うから。


「すまない、殿下にお茶を用意して貰えるだろうか」


 その時、近衛の一人が詰め所にやって来た。先程までのフランクさは何処へやら。先輩たちはすまし顔で「承知しました」と口にする。こういう時の切り替えの早さは、密偵の端くれとして見習いたいところである。


「マイリーも一緒に行く? まだ殿下の執務室には行ったことがないわよね」


 ジャスミンはそう言って、テキパキとお茶の準備を進めている。


「行きます! 行かせてください!」


 数日ぶりに訪れた平時と異なる展開。わたしは胸を躍らせた。