「――――君、見かけない顔だな」


 その時、誰かがわたしに声を掛けてきた。振り向けば、鷹のように鋭い瞳に、ツンツンとんがった髪の毛が特徴的の、ガタイが良い男がわたしを軽く睨んでいる。


「新入り侍女か」


 男はわたしのことを値踏みするように眺め、眉間に皺を寄せている。コクリと小さく頷けば、男はフンと鼻を鳴らす。普通に立っているだけで半端ない威圧感。武人なのだろうと察しがついた。


「名前は?」

「マイリーと申します。今日が初めての出仕です」


 会話をしながら、男性は茶菓子を口に運ぶ。その間ずっと、鋭い視線が注がれ続け、わたしはちっとも殿下を視界に収めることができない。


(ああもう! せっかく殿下の私生活を暴く絶好のチャンスなのに!)


 心の中でそう叫びつつ、ニコニコと穏やかに微笑み続ける。


(さすがに勤務初日から怪しまれるわけにはいかないもんね)


 急がば回れ。追い出されるよりマシだ。


「俺はホーク。殿下の側近をしている。殿下付きの侍女ならば、今後顔を合わせることも多いだろう」

「……ホーク様! よろしくお願いいたします」

(そうか、この人が!)


 殿下の右腕。近衛隊長のホークといえば、出仕前の事前調査リストに当然ながら載っていた。

 殿下の2歳年上の20歳で、大将の息子。確か、どこぞの伯爵令嬢と婚約を結んでいる。絶対的に仲良くなっておいて損のない相手だ。

 ホーク様の顔をさりげなく『念写』しつつ、わたしは先程よりも愛想よく笑う。