王宮が誇る広大で美しいガーデン。この場に集められた十数名の令嬢たちは、咲き乱れる花の如く美しく、『我こそは』という自信と気概に満ち溢れている。


(あぁ、なんてツイているんだろう)


 心の中でそう呟きつつ、わたしは密かにガッツポーズを浮かべる。興奮で胸が張り裂けそうなぐらいだ。


「あなた、今日が初めてでしょう? ついてないわねぇ、勤務初日がこんな忙しい日だなんて」


 先輩侍女が気の毒そうに、そんな言葉を掛けてくれる。確かに、それが普通の感覚なのだろう。
 けれどわたしは、ニヤリと笑いつつ、先輩侍女からお盆を受け取った。


「寧ろ好都合です。是非、わたしに行かせてください。早く仕事を覚えたいので!」


 気合十分なことをアピールすると、先輩侍女は驚きつつも、快くわたしを送り出してくれる。


 わたしの名前はマイリー・レファレンシア。今日からこの王城で、侍女として働くことになっている。実家は没落寸前だけど一応貴族で、印刷業を営んでいる。16歳の花盛りだ。


(んんっ、あれは!)


 先輩方から離れてティーポットの準備をしていると、俄かに周囲が騒めき立つ。見ればそこには、おとぎ話から飛び出してきたかのような、見目麗しい貴公子が立っていた。


「殿下! 本日はお招きいただき、ありがとうございます」


 令嬢の一人が我先にと男性に駆け寄る。


(あっ、良い感じ……! 二人とも、しばらくそのまま、そのままっ)


 刹那、目頭にググっと力を込め、瞳にその光景を焼き付けた。

 『念写』

 わたしには、自分の目で見たものを、紙や壁といった面にそのまま写し出す能力がある。どんな精巧な技術を持った画家でも、わたしのこの能力には敵わない。事実を客観的に形に残すという点において、わたしより秀でたものに出会ったことはない。


(どちらの御令嬢だろう。早くリサーチしたい)


 興奮に胸をときめかせつつ、何食わぬ顔をして仕事を続ける。その間、視界に殿下を常に入れ、念写のチャンスを逃さないように気を配った。