「ワーナーが失礼をして、すみませんでした」


 ようやくワーナーを追い返すことに成功し、わたしは再び伯爵と向かい合う。


「いえいえ、とんでもない。この場にいたのが俺で良かったよ」


 伯爵は朗らかに笑いながら、じっとわたしを見つめてきた。


(見れば見るほど、綺麗な顔立ちだなぁ)


 サラサラした薄茶色の髪の毛、青い瞳、透き通るような白い肌――――見ているだけで眼福だ。
 正直言って伯爵は、これまで雲の上の存在だった。取引のために頻繁に家に来ていたけれど、話し掛けることなんてできなかったし、わたしには興味がないと思っていた。


「それで、先程の話の続きなんですが」


 唐突に現実に引き戻され、わたしは急いで居住まいを正す。心臓がドキドキと騒ぎ出した。


「結婚相手として、俺を選んで貰えませんか?」


 真っ直ぐに注がれた視線は熱く、わたしの心を大きく揺さぶる。
 選ぶだなんて畏れ多い。彼の元にはそれこそ、山ほどの縁談が舞い込んでいるはずだ。それなのに、わたしへ結婚を持ち掛けるだなんて、きっと何かの間違いに違いない。
 それに、契約には互いの対価が釣り合う必要がある。その点わたしじゃ失格だ。


「ですが、ジュード様が抱えていらっしゃる事業に比べると、うちは規模も小さいですし、家格だって……」


 断腸の思いで、わたしはそう口にする。
 本当はわたしだって、こんな素敵な人と結婚出来たら嬉しい。でも、やっぱり……ねぇ?


「事業はリーザ様の目に留まりたくて頑張っただけだよ」

「え?」


 伯爵はそう言ってゆっくりとわたしの手を握る。温かい手のひらから、彼の緊張が伝わってくるようだった。


「この家へ――――君に会うキッカケを作りたくて始めた事業が成功して、気づけばここまで大きくなってた。リーザ様の婚約が決まった時は本当にショックで……でも、諦めなくて本当に良かった」


 困ったように笑う伯爵は、普段の大人びた表情からは想像もつかない。可愛いだなんて思っては失礼かもしれないけど、わたしは見事に心を撃ち抜かれてしまった。


「結婚がビジネスだなんてとんでもない。俺はリーザ様に惹かれたんだ」


 こんなことがあって良いのだろうか。わたしの瞳に薄っすら涙が溜まっていく。


「俺と結婚してくださいませんか?」


 伯爵が照れくさそうに、けれど真っ直ぐにわたしを見つめている。
 頷きながら、わたしは満面の笑みを浮かべたのだった。


(END)