ワーナーは大きく目を見開き、わたしたちを凝視した。
 伯爵はわたしを腕の中に捕えたまま、ニコニコと楽しそうに笑っている。生まれて初めて経験する男性の温もり、その包まれている感覚に、わたしはドキドキが止まらない。ワーナーの厭味ったらしい香りとは違う、上品な香りがすごく心地よかった。


「あなたが、リーザを⁉」

「……俺だけじゃない。リーザ様を妻にと望む人間は山ほどいるんだ。君と婚約していたから遠慮していただけで、本当は皆、この機会をずっと待っていたんだよ」


 伯爵はそう口にしつつ、熱っぽくわたしを見つめる。
 少し話が盛られているようには思うけど、実際、ワーナーと婚約破棄した夜以降、わたしのもとには結構な数の縁談が舞い込んでいた。


「じゃあ俺は……俺は一体どうしたら…………」


 愕然と崩れ落ちるワーナーに、わたしと伯爵は顔を見合わせる。


「地道に新規取引先を開拓するとか、量は減ってもうちとの取引を継続するとか、市場価格を見直すとか、できることはたくさんあると思いますけど」


 少なくとも、彼が今いるべき場所はここじゃない。
 検討できることは山ほどあるんだから、とっととそれに気づいて欲しい。


「それに、あなたの新しいお相手――――あのセルマを広告塔にするっていう案自体は悪くないと思うわよ」

「ほっ、本当か?」

「ええ」


 頷きながら、わたしは微笑む。事業の基礎をすっ飛ばしたがためにこうなっただけで、彼の発想全てが悪いわけじゃない。


(まぁ、ここから這い上がるのは相当難しいと思うけど)


 涙目のワーナーを見下ろしながら、わたしは小さくため息を吐いた。