「残念ですが、それは無理なお話ですよ」

「だから何でですか⁉」


 諭すような口調の伯爵に、ワーナーは口を荒げる。最早体面を取り繕うことすら出来なくなっているらしい。ここまで来ると、何だかワーナーが可哀そうになってきた。


「あの夜、あなたがリーザ様に婚約破棄を言い渡しているのを、何人もの人間が聞いていました。二人が書面を交わしたことを証言できる人間がたくさんいるんです。リーザ様が復縁を望んでいるならいざ知らず、明確に拒否していらっしゃるのですから、書面を破いたところであなたの希望が叶うことはありません」


 伯爵はわたしが言いたかったことをすべて代弁してくれる。あんな当たり前のこと、口にするのも嫌になるレベルだろうに。わたしはありがたくて堪らなかった。


「うっ……だけど――――だけどな、リーザ! 一度婚約破棄を経験すると、嫁の引き取り手は中々見つからないらしいぞ?」

「はぁ……まぁ、そうでしょうね」


 そんなこと、言われなくたって分かっている。大体、そうと分かっていて婚約破棄をしてきたのは他でもない。ワーナーじゃないか。
 わたしは眉間に皺を寄せつつ、ワーナーをじっと睨みつけた。


「悪いことは言わない! 僕ともう一度やり直そう! それが君のためだ! なっ!」

「それについては問題ありません」


 そう口にしたのは伯爵だった。思わぬ返しにワーナーが身を乗り出す。
 すると伯爵は、そっとわたしを抱き寄せ、目を細めて笑う。心臓がドクンと跳ねた。


「あなたの言葉を借りるならば――――俺たちは今、大事な商談中(結婚の打ち合わせ)なんです」

「――――――――――――はぁ⁉」