「それで、わたしが笑った理由だけど」


 少し落ち着いた所で、わたしは話を本題に戻す。


「ワーナー、あなたはあの日、結婚はビジネスと言ったわよね?」

「……っ! そうだ。だからこそ僕は、君との婚約を破棄したんだ」


 伯爵の手前先程迄の勢いは収まっているものの、ワーナーの興奮はまだまだ醒めないらしい。しかし、冷静になるのを待ったところで、彼一人では一生答えに辿り着けそうにない。わたしは大きくため息を吐いた。


「うちにとっても、あなたとの結婚はビジネスだったの。ワーナーと結婚するからこそ、あなたのお父様に通常よりも安い値段で糸や布を卸していたし、色々と融通を利かせていた。そっちの方がうちにも旨味があるからね。……だけど、婚約を破棄したんだから、もうそんな必要はない。不当に値上げをしたんじゃなく、本来の適正価格に戻したってだけの話なのよ」


 まったく、説明するのがバカらしくなるくらい単純な話だ。だけどワーナーは、その辺の事情はおろか、彼の父親の取引先がうちだってことすら碌に知らなかったはずだ。そう思うと、ワーナーの父親がひたすら気の毒だった。


「あれが適正価格⁉ ぼったくりの間違いだろう!」

「失礼な……うちの素材は一級品なの。あれより高い価格で良いから、もっとうちに卸してほしいって方がたくさんいらっしゃるのよ?」


 チラリと伯爵を覗き見ながら、わたしは微笑む。何を隠そう、彼もそんな顧客の一人だ。


「でも、良かったわ。これまでワーナーのお父様に卸していた分を他の方に卸せるようになるから、すごく助かっちゃう。顧客の皆さまにも喜ばれるわ。ありがとうね、ワーナー!」


 わたしはワーナーの手を取り、彼を真っ直ぐに見上げた。ワーナーは真っ赤な顔をし、怒りで小刻みに震えている。


(うーーん、ちょっと煽り過ぎたかな?)


 押し黙ってしまったワーナーを見つめながら、わたしは苦笑を漏らす。さっさと話を終わらせたかったのだけど、逆効果だっただろうか?


「――――――取り消そう」