「安心して。もう何も、ダリアから奪わせはしないよ」


 謳うように、誓うように、エドワードが口にする。ダリアの瞳に涙が滲んだ。


「服も、靴も、侍女だってもう、全部揃えてある。ダリアは身一つで僕のところに来てくれたら、それで良い」


 両脇を抱えられ、気づけばダリアは、エドワードの膝の上を跨ぐようにして、彼を見下ろしていた。


「あの日の約束を叶えに来たよ」


 左手がゆっくりと持ち上げられ、次いで柔らかく温かい唇が押し当てられる。


「…………っ」


 甘く蕩けるような言葉に心が疼く。
 次いで冷やりとした感触が、ダリアの薬指の先から根元の方へ向かって走って行った。


「エドワード、これ……!」


 見れば、ダリアの薬指に大きな宝石が光っている。
 けれどそれは、マーガレットの指で光っていたそれとは違っていた。

 子どもの頃に貰ったオモチャの指輪を想起させる、薄っすらと紅い石。それは、マーガレットが身に着けていた指輪より、ずっとずっと、美しく、輝いて見えた。


「僕の全部はダリアのものだよ。ダリアだけのものだ」


 もうずっと、欲しがることを忘れていた。諦めていた。
 けれど。


「良いのかな?」


 今までボロボロになってようやく返って来た、ダリアの大切なものたち。返ってくることすら無かったものも、たくさんある。


「もちろん」


 けれどエドワードは、まるでダリアのためだけに存在するかの如く美しい。穏やかな笑みも、優しい瞳も、あの幼い日のままだった。
 胸にこみあげてくる、随分前に失ったと思っていた感情たち。


(本当はずっと、ここに残ってたのね)


 ほんのりと甘く、しょっぱい口付けに笑いながら、ダリアはエドワードを力強く抱きしめたのだった。


(END)