「だけど、だけど!今回の王太子殿下との婚約話は寝耳に水の話だったし、エドワードたちの結婚もあと少しのはずだったのに――――」


 その時、エドワードの瞳が妖しく細められる。


(え?えぇ?)


 含みのある笑み。何やら身の竦む思いだが、エドワードがダリアをがっしりとホールドしている。とても離してくれそうにない。


「あのね、ダリアを迎えに行くために、僕はただ手を拱いていたわけじゃないんだよ」


 ふふ、と柔和な笑みを浮かべながら、エドワードはダリアを優しく撫でる。


「幼い頃の僕は、とにかくマーガレットを満足させようと躍起になっていた。だけど、それだけじゃ埒が明かないと分かった。だから僕は王太子殿下の側近になることにしたんだ」

「……?王太子殿下の側近に?」


 王太子といえば、これからマーガレットが婚約を結ぼうとしている人物である。


「そう。マーガレットは昔から、ダリアのものならなんだって欲しがる――――いや、ダリアのものだから欲しがる子だ。けれど、案外僕自身に執着しているようだったからね。その辺の令息とダリアとの間に婚約話が湧くぐらいじゃ、靡かないかもしれないなぁって思ったんだ」

(あぁ、確かに……)


 ダリアの脳裏に、エドワードがマーガレットの婚約者になったと聞かされた日が浮かぶ。
 優越感と愉悦に満ちたマーガレットの表情は忘れたくても忘れられない。
 先に好きになったのは自分だったのに、その気持ちすらも奪われてしまったように感じられて、ダリアはすごく口惜しい思いをしたのである。