(予定?遅くなった?)


 ダリアは頬を真っ赤に染めながら、ドキドキとうるさい心臓を抑えこむ。
 これは己の願望が見せる幻ではないか――――そう思う度、熱い眼差しが、温もりが、これは現実なのだとダリアに思い知らせる。


「僕は今日、ダリアを迎えに来たんだ」


 ふわりと漂う甘い香り。気づけばダリアはエドワードの腕の中にいた。


「え?」


 混乱でエドワードの言葉の意味を上手く呑み込めない。


「ずっとずっと、今日を待ってた」

「なっ……待って、エドワード!わたし、あなたはマーガレットとの婚約を喜んでいるって思ってた!婚約を破棄されて、苦しんでるって……」

「そう見えるように仕向けていたんだ。だって、そうしないとあの子は僕を手放してくれないだろう?」


 思わぬ言葉にダリアは目を見開く。


「欲しがり令嬢マーガレット。姉であるダリアの大切な物を手にするまで、あの子は決して諦めない。手に入らないほどに執着する。だから僕は、一度は婚約を呑む振りをした」

「振り?」

「そう。あの子は気づいていないけど、僕たちの婚約は正式なものじゃなかった。互いの両親も了承済みの話だよ」


 ダリアは言葉を失った。そんなこと、想像すらしたことがなかったのだ。


「そうしてあの子が僕をダリアに返して良いと思える日が来る――――その日が来るまで、僕はずっと耐え忍んできた。ようやく今、その願いが叶ったんだ。もう一秒だって待ちたくない」


 そう言ってエドワードはダリアの頬に唇を寄せる。血液が沸騰し、一気に頬に集まってくる。ダリアはそっと首を横に振った。