それから数日後。
 マーガレットと両親は、王城へと向かった。


(まさか、本当に話がまとまるとは思わなかったなぁ)


 つい数日前まで、マーガレットがエドワードと婚約していたことは、何の障壁にもならなかったらしい。それは意外な事実だった。

 一人残されたダリアは、古い大きな木箱を膝に抱えていた。箱の中には、妹から奪われ、その後ボロボロになって返って来た、ダリアの大事なものが詰まっている。


(本当はもう、捨てるべきなんだろうなぁ)


 マーガレットに返してもらったものの中に、ダリアが今でも欲しいと思うものなんて一つもない。
 けれど捨てれば、いよいよ自分が空っぽになってしまうような気がして、思いきることができずにいる。


(いや、一つだけあるか)


 ダリアは箱の中身を一つ手に取った。
 中央に白く輝く宝石が埋め込まれた、美しい指輪。つい先日、マーガレットが投げ捨てた、彼女とエドワードの婚約指輪だった。


(綺麗……)


 ダリアにはもうずっと、欲しいものなんてなかった。けれど、マーガレットの薬指に光るこの指輪を見る度、沸々と煮えたぎる様な嫉妬心に身を焦がしたことを思い出す。


『僕がプレゼントしてあげるよ。必ずダリアを迎えに行くから』


 目を閉じれば脳裏に浮かぶ、穏やかな笑顔。優しい声。小さな男の子のその手には、オモチャの指輪が握られていた。
 そんなオモチャの指輪ごと、あっという間に妹に盗られてしまったけれど。


「嘘吐き――――」

「誰が?」


 ポツリと漏らした呟きに答える、誰かの声。振り返れば、そこには思わぬ人物の姿があった。