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「遅くなってごめん!」


 優しく朗らかな声音に、クロシェットが微笑む。


 クロシェットは今、聖女として、人々のために働いている。

 森に、泉に、国境へと赴いては、ウルたちとともに魔獣を倒し、土地を浄化をし、結界を張って回っている。


 そして、彼女の隣にはいつも、夫となったセデルの姿があった。


 何もしなくて構わない。屋敷の中で平和に暮らして良いと言う彼に、クロシェットは微笑む。


《貴方の大切なものを、わたしも一緒に護りたいんです》


 ボロボロなときに助けてくれたからというだけではない。
 セデルは人のために自分の命をかけることのできる、とても優しい人だった。

 彼はいつでも誠実で、勤勉で、領民たちのことを一番に考えていた。

 クロシェットのこともそう。
 国に聖女が存在すること――――クロシェットを隠しだてすることで、己が非難に晒されても構わない―――そんな風に彼は笑っていた。

 誰かの幸せのために、自らを投げ出すことができる。
 そんなセデルに惹かれるまでに、時間は全く掛からなかった。


「いいえ、セデルさま。ちっとも待っていません」


 クロシェットが笑う。

 セデルに差し出された手のひらを、クロシェットが握る。
 二人は寄り添いながら、一歩、また一歩と、同じ道を歩いていく。

 彼女はもう、一人ぼっちではない。


 かくして、置き去りにされた聖女は、隣国で幸せを掴んだのだった。

(END)