「お姉さま、わたくし欲しいものがあるんです」


 碧い瞳をウットリと細め、妹であるマーガレットが微笑む。


(欲しいもの、ねぇ)


 お姉さまと呼ばれた少女――――ダリアは、心の中でため息を吐きながら、そっと顔を上げた。


「そう。今度は一体何が欲しいの?」


 請われたら与える。それを前提とした、気のない返事。
 マーガレットが今身に着けている美しい髪飾りも、繊細な刺繍の入ったドレスも、元々はダリアの物だった。

 それだけじゃない。

 靴やカバン、可愛い調度品や本、それから侍女や家庭教師、友人たちに至るまで、ダリアの大切なものは全て、マーガレットに奪われてしまったのである。


「ふふ、何だと思う?」


 マーガレットは口元に手を当て、優雅に笑って見せた。彼女の薬指には、大きくて美しい宝石が輝きを放っている。


「分からないわ。あなたが欲しがるようなもの、わたしにはもう、何も残っていないと思うのだけど」


 そう言ってダリアは目を伏せた。

 最初の頃はダリアだって、マーガレットの要求に抵抗していた。「嫌だ」と、「これはわたしのものだ」と、きちんと主張していた。
 けれど、二人の両親がそれを許さなかった。『姉に生まれたならば、妹が欲しがるものを与えるのは当然だ』と諭され、その癖二人はダリアに多くを買い与えてはくれない。

 おかげでダリアは、公爵令嬢らしからぬ空っぽの部屋で、侍女すらいないまま、寂しい生活を送っているのだ。


「隠したって無駄よ!あるでしょう?お姉さまのとっておきが!」


 ダリアの隣に腰掛けながら、マーガレットはウットリと目を細める。頬がほんのりと紅く染まっていた。


「とっておき?」


 頭に浮かぶのは空っぽなクローゼットと、もの寂しい部屋。残念なことに、ダリアには思い至る節がない。
 わけもわからないまま首を傾げていると、マーガレットは勢いよくダリアの手を握った。


「分からない人ね。王太子殿下との婚約話よ!決まってるでしょ?」


 そう言ってマーガレットは瞳をキラキラと輝かせている。