(一体、いつまでここに居れば良いのだろう?)


 穏やかな水面を見つめつつ、クロシェットは息を吐いた。
 そよ風が優しく頬を撫で、小鳥たちが囀る。

 この地で生活を始めて既に二年。クロシェットは毎日、湖の入り口を見つめながら、人の気配に耳を澄ませる。

 けれど、待てど暮らせど待ち人は来ない。本日二回目のため息が漏れた。


『もう十分ではないか? 新たな魔獣が出現しなくなって久しい。この湖の浄化は完了したように思うが?』


 そう口にしたのは、白銀の毛並みが美しい巨大な狼だった。名をウルといい、クロシェットとともに暮らしている。賢く、人の言葉を喋る彼は、孤独なクロシェットの心の拠り所だ。


「分からないわ。わたしはザックさまの言いつけどおり、湖に結界を張り続けただけだもの」


 クロシェットはそう言って、穏やかな湖面をぼんやりと眺める。

 二年前は真っ黒に濁り、禍々しい瘴気で溢れかえっていたこの場所。今や空色に澄み渡り、森の動物達のオアシスへと様変わりしている。既に目的は達成した――――そう考えても差し支えないのだろう。けれど――――