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 きらびやかな夜会会場。
 真紅の艶やかなドレスを身に纏い、あたしは一人静かにターゲットを見つめる。

 
【早速釣れたようだな】


 背後からダミアンが囁く。コクリと頷きつつ、あたしはニコリと微笑んだ。


「こんばんは、美しいご令嬢。貴女のお名前をお聞かせいただけませんか?」


 ロズウェル侯爵はお父さまと同じか、少し上ぐらいの壮年男性だ。
 綺麗なロマンスグレー。既婚者だし、普通だったら若い令嬢はお近づきになりたくない相手だけど、何とも言えない大人の魅力を醸し出しており、趣向さえあえば、コロリと堕ちてしまう者もいそうな雰囲気だ。


【絆されるなよ、アイナ】

【誰が】


 正直いってあたしの好みじゃないし、借金まみれで他人に迷惑かけまくっているオヤジなんてお断り。誰が好きになるかっての。


「アイリーン・アスモダイと申します。以後、お見知りおきを」


 今回はターゲットが貴族ということで、バリバリの偽名を使うことにした。
 アスモダイ家はアスモデウス家の分家である伯爵家。こちらには『悪魔』の評判は付き纏っていないので、変に警戒されることはない。