「考えるのは止めろ。お前は何も悪くないだろう?」


 ダミアンにポンと頭を撫でられ、目頭がグッと熱くなる。


「良いか、アイナ。お前の父親はまだ亡くなっていない。然るに、あの遺言状は現状効力を有していない」

「うん……それは分かってる。だけど、お父さまの意思は確認しようがないし。
あたしが居なくなったあの家で、お父さまがきちんと治療を受けていられてるかどうか……」


 今となっては、メアリーと義母にとってお父さまは目障りな存在のようにも思えてくる。早く死んで、爵位と財産をこちらに寄越せと、何もせずに放置されているのでは? 
もしかしたら、既に亡くなってしまっているかもしれない。親の死に目にすら会えないなんて――――。


「来い、アイナ」

「え、何⁉」


 ダミアンにヒョイと抱き上げられて、あたしは素っ頓狂な声を上げる。どうせ抱くなら横抱きにすりゃ良いものを、肩に担がれたもんだから身体が痛い。 


「――――え? お父さま……?」


 だけど、ダミアンに連れてこられた部屋の中、ベッドで眠るお父さまを見て、あたしは何も言えなくなった。


 最後に実家で見たときと同じ姿。一体どうしてこんな場所にいるの?

 困惑するあたしの手を、ダミアンが黙って握る。
 ――――どうして? だなんて嘘。
 本当は聞かなくたって分かってる。


「お父さまのこと……守ってくれたの?」


 悪魔のくせに。ドSのくせに。変に優しいから困ってしまう。


「愚か者め。泣いてる暇などないだろう?」


 ぶっきら棒な言葉。
 だけど、すごくダミアンらしい。


「――――うん。行こう」


 決意を新たに、あたしは強く地面を蹴った。