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「どうして分かったの?」

「ん?」

「婚約破棄の理由――――私が嘘を吐いているって」


 ようやくレグラスの腕から解放された私は、彼と二人、何となしに庭園を歩いていた。レグラスはほんの少しだけ目を細めて私を見つめ、その場にゆっくりと立ち止まる。私も彼に合わせて歩を止めた。


「姫様が国を大事に思っていることは分かっています。けれど、本来のあなたは国益のために自分の幸せを諦める方じゃありません。陛下と王妃様の仲睦まじい様子を側近くで見てきたあなたが、温かい家庭に憧れているのは知っていましたし。初めに王妃様の妊娠の報告をしてくださった時も、そんな様子はおくびにも出していませんでしたから。
だから、あなたがそんなことを言い出したからには、唆した人間が存在するに違いない――――ジェニュイン様が俺に懸想していることは知っていましたし、状況から判断して彼女に間違いないだろうと、そう思ったんです。姫様は純粋ですから、言われたことをそのまま信じたんだろうと」


 そう言ってレグラスは私の手をギュッと握る。途端に心臓がバクバクと鳴り始めた。対するレグラスは実に涼し気な表情で、何だかとても腹立たしい。先程の告白は嘘だったんじゃないか――――ついついそんなことを思ってしまう。


「俺は感情を表に出すのが苦手だから――――コロコロと表情の変わるあなたに惹かれたんです」


 まるで私の頭の中を覗いたかの如く、レグラスはそう口にする。ボンと音を立てて身体中の血液が沸騰する気がした。