この世には神様など居ない。居るなら、こんな仕打ちはなさらない筈だもの。

 絶望に膝をつくあたしの頭上で、酷く愉悦に満ちた声音が響いた。


「ああ、ごめんなさい……お義姉さま。悪気はなかったのです」


 そう口にするのは、義理の妹であるメアリーだ。


 (嘘つけ。完全に狙ってやったことだろうに)


 下からキッと睨めつければ、メアリーは大袈裟に瞳を震わせた。


「やだぁ、怖いわぁ。そんな顔したって仕方がないじゃない? だって、他でもないラファエルさまがわたしのほうが良いって仰るんだもの」


 メアリーの隣にはあたしの婚約者――――いや、元婚約者であるラファエルが佇んでいて、あたしのことをじっと見下ろしている。

 色素の薄い金の髪に真っ白な肌、まるで氷でできた人形のような美しさを誇る彼は、男児に恵まれなかった我がラグエル家を継ぐために父が選んだ男だ。
 遠縁の伯爵家の三男である彼は、我が家に婿養子に入らなければ爵位を継ぐことが出来ない。
 完全なる政略結婚。
 双方が納得していたし、あたし達は良好な関係が築けていると思っていた。


 雲行きが怪しくなったのは、父が再婚をした頃だろう。

 これまで殆ど笑うことのなかった彼が笑顔を見せるようになった。
 けれど、それはあたしに対してじゃない。
 血の繋がっていない、あたしの義理の妹メアリーに対してだ。

 腹立たしさを押さえつつ、あたしはラファエルを見つめた。