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 翌朝、希望と絶望を胸に僕は目覚めた。


(夢であってほしい……)


 寝台で一人頭を抱えながら、胸がザワザワと騒ぐ。

 目を瞑るのが怖かった。目を開けるのが怖かった。
 僕の隣にエーファが居て、いつものように微笑んでいる――――そんな夢を見たい――――それが現実だと思いたかった。

 けれど、現実と言うのは残酷だ。


「おはようございます、シェイマス様」


 底抜けに明るい声音を響かせ、僕の部屋にミランダが入ってくる。僕付きの侍女達が皆困惑した表情で、彼女の側に付き従っていた。


「ミランダ……どうしてここに?」

「嫌ですわ、シェイマス様。わたしはあなたの婚約者ですもの。誰よりも先におはようの挨拶をしたかったんです」


 そう言ってミランダはニコニコと屈託のない笑みを浮かべる。胸が勢いよく抉られるような心地がした。


「――――すまないが、出て行ってくれないか? 今日はもう少し休みたい」


 僕はそう言ってため息を吐く。
 普段ならとっくに起き出し、朝の鍛錬に出掛ける時間だ。けれど、今の僕には指先を動かすことすら億劫だし、怠くて辛くて堪らない。

 それに、悪いのは僕だと分かっていても、ミランダの顔を見たくはなかった。嫌でも現実を思い知らされるし、一緒に居ると、胸やけを起こしたかの如くムカムカする。
 春の陽気のように柔らかで温かなエーファが懐かしくなって、涙が零れ落ちそうになった。