「お話は以上ですか?」


 背後から淡々としたレグラスの声が聞こえる。私はコクリと頷いた。今は声が出せない。目頭がツンと熱くなった。


「だったら今度は、俺の話を聞いてもらえますか?」


 その瞬間、ふわりと身体が宙に浮く。見ればレグラスが、私を抱きかかえていた。


「えっ? えっ……⁉」


 突然のことに目を見開き、私はレグラスの腕の中で身動ぎすることしかできない。


「あなたを唆したのは、ジェニュイン様ですね?」


 部屋を出て、城内を速足で移動しながらレグラスは尋ねる。背後を追う護衛の騎士たちも、驚きの余り顔を見合わせていて、何だか物凄く恥ずかしいし居たたまれない。


「唆しただなんて、そんな―――――ジェニーはただ、私に事実を教えてくれただけで――――」

「『事実』は、俺の中にしか存在しません」


 そう言ってレグラスが向かった先は、ジェニュインの私室だった。


「レグラス様⁉ それに、シュリも……。一体、どうなさったの?」


 ジェニュインはレグラス様を見て瞳を輝かせたかと思うと、次いで私の存在に気づき、表情を曇らせた。


「姫様に婚約を破棄したいと言われました」


 レグラスは私を抱きかかえたまま、そう口にする。こちらの身が竦むほど、凄みの効いた表情。ブルりと身震いしつつ、私はレグラスとジェニュインを交互に見た。


「まぁ……! ご心痛、お察ししますわ」

「え……?」


 思わずそう口にし、私は首を傾げる。
 ジェニュインならば『おめでとう』と、そう言うだろうと思っていた。だって、レグラスにとって私との結婚が重荷でしかないと、そう言ったのは他でもない彼女だもの。