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 そんなやり取りをして、半年が経った。


「姫様? 一体どうなさったのですか?」


 レグラスが怪訝な表情でそう尋ねる。
 未だ私は、彼が私との婚約をどう思っているのか、話が出来ていなかった。母の妊娠がどこまで無事に進むか分からなかったし、そもそも生まれてくる子が女の子なら、現状維持で許される筈だもの。


『婚約破棄をするとして、陛下と王妃様には事前に相談しない方が良いわよ。お心を煩わせてしまうから』


 ジェニュインのそんな助言もあって、両親にはこのことを相談できていない。妊娠中は少しの心労がお腹の子に大きな影響を及ぼすこともあるというから、ジェニュインの言うことはもっともだと思うのだけど、その分思い切ることが出来ない。相変わらず、彼が感情を表に出すことは無かったから。


「あっ……えぇと、母のお腹の子が男の子だって確定したらしくて。そのことについて少し考えていたの」


 聖女の力というのは侮りがたい。つい先日、ジェニュインは大きくなった母のお腹に手を当て『男の子だ』とそう断言した。
 性別は伏せられているものの、現在では国中の皆が母の妊娠を知っている。世論が『男の子の出産』を向かっていることは、最早疑いようのない事実だった。


「ジェニュイン様がご覧になったのですか?」

「えぇ。赤ちゃんが大きくならないとハッキリ見えないらしくて。ようやく間違いないって言えるまでになったらしいけど」

「そうか。あの方がそう言うなら、間違いないのだろうな」


 そう言ってレグラスは、薄っすらと笑う。その瞬間、胸が音を立てて軋んだ。
 瞳がレグラスに釘付けになる。彼はどこか遠くを見つめるような目をして微笑んでいた。


(レグラスのこんな表情、見たことがない)


 嬉しそうな――――どこか愛し気な彼の表情が、一体誰に向けられたものなのか。


『あの方がそう言うなら、間違いないのだろうな』


 頭の中で、レグラスの言葉が木霊する。