『ティアーシャの絵?』


 ふと脳裏に蘇る冷たい声音。次いで、一人の男性の姿が浮かび上がる。ティアーシャの婚約者であるエミールだ。


『ええ! 先日お話しましたでしょう? クラスメイトのディートリヒ様に私を描いていただいたのです。新しくドレスを作ったから、エミールにも見ていただきたいなぁと思って。絵を見て興味を持っていただけたら、是非我が家においでいただきたいと……』

『悪いけど、全く興味ない』


 ふ、と小さく嘲笑い、エミールはそのまま踵を返す。
 彼の傍らにはいつもと同じ、幼馴染の女性の姿がある。
 ティアーシャがエミールを見初めなかったら――――結婚したいと駄々を捏ねなかったなら、彼の妻になったであろう女性だ。


(どんなに頑張った所で、エミールは私を見てくれない)


 婚約した当初は、ティアーシャだって希望を持っていた。
 たとえ金と権力にものを言わせた政略結婚だとしても、いつかはティアーシャのことを見てくれる。愛してくれるだろうと思っていた。

 けれど、彼のティアーシャの扱いは年々悪くなるばかり。まるで空気か、その辺に落ちている石ころの如く扱われる。

 嫌われた方がまだマシだ。無関心の方が余程辛い。

 せめて興味を持って欲しい――――話題を振りまけば多少は関心を惹けるだろうか――――そうして出来上がったのが、今のティアーシャの姿だったのである。