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 ティアーシャの目論み通り、ノアの描いた絵は凄まじい威力を発揮した。
 視覚のもたらす効果は絶大で、彼女の周りにはいつも人だかりが絶えない。


「素敵! 話には聞いておりましたが、こんなに素晴らしい逸品でしたのね!」

「わたくし、こちらのドレスをお作りになったサロンを是非ご紹介いただきたいわ!」


 以前からティアーシャを褒めそやしていた令嬢たちではあるが、目の色が明らかに違っている。絵を眺め、目を瞑り、ややしてまるで自分がティアーシャに成り代わったかのように、頬をウットリと染めるのだ。


「今度お屋敷にお邪魔しても構わない? 実物を見てみたいわ」

「もちろん。是非いらっしゃって?」


 目論見が上手くいったため、ティアーシャはとても嬉しそうだ。ノアとしても描いた甲斐があったと思う。


「ところで、こちらの絵はどなたがお描きになったの? 素晴らしい腕前ですわね」


 ある時、令嬢の一人がそう尋ねた。
 ティアーシャは嬉しそうに瞳を輝かせつつ、唇に人差し指を押し当てる。


「残念ながら、それはお教えできませんの。けれど、貴女の言葉は必ず、私が本人に届けますわ」


 教室の隅でノアが笑う。届けるも何も、描き手本人はここに居る。
 どうも、と小さく口にしながら、自分が褒められた時よりも嬉しそうに笑うティアーシャの姿をノアはぼんやりと眺めていた。