『ですから、ディートリヒ様には私や私のもの、屋敷等を描いて欲しいと思いまして』


 期待に満ちた眼差し。彼女の原動力は『他人に認められること』に他ならなず、そのためならば何だってするのだろう。


(そんなことしなくても、皆が羨んでいると思うんだけどな)


 そう思いつつも、ノアはティアーシャに興味があった。理解が出来ないものほど描き甲斐がある。それに、綺麗なもの、美しいものは出来る限りこの目に焼き付けておきたい。


『承知しました。俺で良ければ描きましょう』

『本当ですか!?』

『ええ。だけど、貴女の婚約者は大丈夫なのですか? 俺が貴女の屋敷に出入りすることを嫌がるのでは?』


 ティアーシャには一つ年上の婚約者が居る。エミールと言う伯爵令息で、誰もが羨むような甘いマスクの男性だ。二人の婚約は学園内では周知の事実で、彼と婚約をしていることもティアーシャの自慢の一つなのだが。


『――――エミールにはきちんとお伺いを立てます。彼にダメだと言われたら諦めますわ』


 そう口にし、ティアーシャは穏やかに微笑む。らしくない表情だと感じながらも、ノアは小さく頷いた。