「お許しください、女王様。私は……私共は無実です!兄上が亡くなられたのは…………」

「事故だったと、そう申すのですか?」


 冷ややかな声音に、クロノスは身体を震わせる。今、この場で釈明をしているのは、彼の義理の父親――――ブラウン公爵だ。


「ここに兄からの手紙がございます。死の間際に私に宛てた手紙です」


 クロノスは顔を上げることができないため、女王がどんな顔をしているのかは分からない。けれど、その声音はどこか懐かしい。こんな時だというのに、何やらそれが気にかかった。


「この手紙には誰が兄上を陥れたのか、その方法、証拠の何もかもが記されています。兄は慎重な人でしたから、手紙は巧妙に隠されていて、全て集めるのに数年かかりましたが……筆跡鑑定も済んでいる、正真正銘兄からの手紙です」


 王弟やブラウン公爵が歯噛みする声が聴こえる。
 話の流れや義理の父の様子から判断すれば、犯人は彼等で間違いない。クロノスの全身から血の気が引いた。


(嘘だろう?なんのために俺は――――)


 ブラウン家の令嬢との結婚は正しいことのはずだった。父親や母親、弟たちのためにも地位を盤石にして発展させる。それが自分の役目だと思っていた。
 それなのにクロノスは今、王太子殺害の一派として断罪され、その地位を奪われようとしている。


「そっ、そもそも!あなたが本当に国王陛下の血を引く娘なのだとしたら、これまで何処にいらっしゃったのですか?どうして姿を隠して」

「それは当然、あなたがたから身を守るためです」


 女王はにべもなくそう答えた。