「――――――恋愛は……したくないです」


 俯きながら、わたしはそう答える。
 恋なんてもう懲り懲りだ。愛のない政略結婚ならば、こんな風に心が揺れ動くことは無いだろう。相手に浮気をされようが、白い結婚を突き付けられようが、何も感じることは無い。きっと、ずっとずっと楽チンだ。


「まぁ……シュザンヌらしくもない! 大体、今どき政略結婚でも恋愛は必要よ?」

「きちんと割り切って政略結婚に身を捧げたら、恋愛をする必要はありませんわ。お相手は奥様に先立たれたご年配の方でも、他の令嬢が逃げ出すような見た目の方でも、誰でも構わないんです。ただ結婚出来れば、それで」


 きっぱりとそう答えれば、母は何とも悲しそうな表情を浮かべた。
 大体からして現代の貴族は『政略で構わないからとりあえず結婚してしまえ』という風潮があり、不倫を楽しむことが一種の嗜みになっている。だから、滅多なことでは婚約の破棄は成されず、皆そのまま結婚をしてしまう。

 わたしの両親は例外中の例外で、恋愛結婚だったうえ、余所に恋人を作ったりはしていない――――わたしにとっては理想の夫婦だった。けれど、そんな理想がまかり通るのは極々一部。お伽話の中だけに存在するような夢物語だ。


(どうせなら、もっと早くに気づきたかった)


 気づいていれば、こんな風に傷つきはしなかっただろうに――――そんなことを思いつつ、悲し気な表情の両親を見遣る。二人にはとてもじゃないけど本当のことを話せそうにない。


「――――とにかく、よろしくお願いします」


 そう伝えて、わたしは部屋を後にした。