さて、いよいよ結婚というタイミングで婚約者を奪われ、家を追われることになったブリジットは、父親の指示のもと、スカーレットに来ていた縁談を引き継ぐことになった。
 ヒューゴ・フェルーゼン。御年26歳の子爵で、あまり社交の場にも顔を見せず、貴族の中ではあまり存在感のない人として認識されている。

『この年になるまで独身なんだから、顔も性格もステイタスも推して知るべし、よ』

 というのが、スカーレットの評価だ。
 けれど、ブリジットとしては、そんなこと、どうでも良かった。そもそも、元婚約者だったミカエルを含め、結婚自体に関心が持てなかったのだ。


(どなたと結婚しても、することは同じ)


 子を成し、家門を護ること。それこそが、自身に与えられた責務だ。


「それは……まぁ、そうかもしれませんが」


 新たな婚約者――――ヒューゴに考えを伝えると、彼は驚きに目を見開き、困ったように肩を竦めた。
 ヒューゴはスカーレットの予想に反して、目鼻立ちのスッキリした精悍な顔立ちの男性だった。線の細い男性が多い傾向にある貴族社会において、彼のような男性はあまり好まれないのかもしれない。耳目を集めるような派手さはなく、率先して人の上に立つようなタイプではないのかもしれない。けれど、ブリジットがヒューゴに抱いた第一印象は悪くなかった。


「……? 何か問題がございますか?」

「いや、俺としては折角夫婦になるのだし、仲良くやっていきたいと思っているんですが」