(元々この家に私の居場所なんてなかったのだし)


 出ていけ、と言われたところで、ブリジットはそこまでショックを受けなかった。寧ろ、家を継がずに済むこと、離れられることは好都合とさえ思える。
 『娘に必要な教育を受けさせていない』――――そんな風に世間から後ろ指を指されたくない父親のおかげで、生きて行くのに必要な教育だけはしっかりと受けている。仮に身一つで追い出されたとしても、何とかできるだけの算段はあった。


「あの……私はそれで構いませんが、スカーレットは愛のある結婚をしたいのですよね? 本当にミカエルで宜しいのですか?」

「えぇ、もちろんよ。ミカエルは既に、わたくしのことを愛してくださっているんだもの。婚約者であるお姉さまではなく、このわたくしをね」


 そう言ってスカーレットは誇らし気に胸を張った。
 ミカエルは男性にして、社交界の花と謳われる程の美丈夫だ。令嬢やご婦人方から、引っ切り無しに声のかかる彼を夫にできることは、スカーレットにとって名誉なことなのだろう。


「でしたら私に異論はありません。どうぞ、二人で幸せになってください」


 ブリジットは屈託のない笑顔を浮かべ、そんなことを言う。思わぬ反応に、スカーレットは嘲る様に鼻を鳴らした。


(なによお姉さまったら。強がっちゃって、馬鹿みたい)


 ミカエルの腕を抱き締めつつ、スカーレットは勝利の味に酔いしれた。