「本当はいつから気づいてたんだ?」


 アビゲイルはチラリと後を振り返りながら、そう尋ねる。夜風がとても心地よい。足取りもとても軽やかだった。


「そういうお前はいつだと思うんだ?」


 トロイは質問を質問で返した。アビゲイルは唇を尖らせながら、そっと視線を逸らす。


「……最初から。私が鎧を身に着けていた時点で気づいていたんだろう?」

「御名答。まぁ、さすがにあの時点では推測の域をでなかったけれど」


 トロイはそう言って不敵な笑みを浮かべた。

 一般人ならばまだしも、相手は王太子の側近だ。存在自体が希少な女騎士が守護するものが誰かぐらい、瞬時に見抜けていたのだろう。


「ならばどうして殿下に伝えなかった?わざわざ私に着替えまでさせて」


 アビゲイルはそう言って小さく首を傾げる。

 最初から互いが婚約者だと分かっていたら、ライアンもロゼッタもあんな風に苦しまずに済んだ。国王や国民に変な誤解をさせずに済んだというのに。


「――――敢えて言うなら報酬が欲しかったから、かな」


 トロイはそう言って悪戯っぽく微笑む。


「は?」


 アビゲイルは目を丸くすると、トロイを真っ直ぐに見つめた。


「けど、俺のおかげで王女も殿下も婚約者というフィルターなしに互いを想い合えたんだ。普通に政略結婚するより、絆はずっとずっと強固だよ。結果オーライだと思わない?」

「――――――たまたま上手くいっただけだろ?」

「まぁね。だけど、俺は策士だから」


 そう言ってトロイはアビゲイルの頬を手のひらで包み込む。