先程まで険しかった国王の瞳は、穏やかに細められている。ロゼッタは今にも泣き出しそうな表情をしていた。

 傍から見ればライアンの行動は決して褒められたものではない。

 彼等王族の一挙手一投足は国を揺るがす。人々の命を救いもするし、脅かしもする。王族が誰に、何のために生かされているのか。それらを全て無視する行動だ。

 けれどアビゲイルは、ライアンを責めることはできなかった。きっと国王も、ロゼッタも同じ気持ちなのだろう。


「時を同じくして、僕はこちらの姫君が行方不明になっていることを知りました。僕が身を寄せていた森のすぐ側で暴徒に襲われたこと。供に銀髪の美しい女騎士を連れているはずだということ――――それを聞いた時、僕は運命の巡り合いに打ち震えたのです」


 ちっともそんな素振りを見せていなかったというのに、ライアンとトロイの二人には、アビゲイルたちの正体がバレていたらしい。


(それならそうと早く言ってくれれば良いのに)


 そんなことを思っていると、アビゲイルの手のひらを何かがそっと包み込んだ。顔を上げれば、トロイがこちらを見ながら穏やかに微笑んでいる。


(なに?なんなの?)


 まるで慈しむかのような温かい眼差しに、アビゲイルは動悸を隠せない。全身が燃えるように熱いし、先程から指先も手のひらも、一ミリだって動かせずにいる。汗ばんだ手のひらから、アビゲイルの心臓の音が聞こえてしまうのではないか。そんな心配を本気でしてしまう。


「ロゼリア―――――いや、ロゼッタ王女。どうか僕と結婚していただけませんか?僕はあなたと共に幸せになりたいのです」


 凛と響くライアンの声。
 返事なんて聞くまでもない。ロゼッタは至極幸せそうに微笑んでいた。