「おまえ、主がいるのか?」


 アビゲイルは思わず疑問を口にした。

 男の着ているものは肌触りも質も良いし、立ち居振る舞い一つとっても、誰かに仕えているより、仕えさせる側の人間に見える。

 おまけにアビゲイルたちの滞在を許可したのはこの男自身だ。なにやら腑に落ちなかった。


「――――――まぁな」


 何やら含みのある返答だが、男が詳細を語る気はなさそうだ。アビゲイルは心の中でため息を吐いた。



「こんな所に迷い込むなんて大変だったね」


 男の主は穏やかで紳士な、美しい男性だった。未だ18歳という若さなのに、落ち着きと貫禄があって、懐も深い。アビゲイルはホッと胸を撫でおろした。


「突然のお申し出にも関わらず、私達を受け入れて下さったこと、心より感謝申し上げます。私はロゼリア。こちらは侍女のアビゲイルです。よろしくお願いいたします」


 アビゲイルはロゼリアと一緒になって頭を下げる。

 嘘を吐かせることは心苦しかったが、ロゼッタには偽名を使ってもらうことにした。こうすれば簡単に身元を割りだせないだろうし、余計な詮索は避けられるだろうとの考えからだ。


「僕はライアン、こっちはトロイだよ」


 ライアンはそう言ってニコリと笑う。従者とは異なり、裏表のない、とても清々しい笑顔だった。