「私の名はアビゲイル。わけあってこの森に迷い込んだ」


 金色に輝く男の瞳を真っ直ぐに見つめながら、アビゲイルは口上を述べる。男は品定めをするかのようにアビゲイルを上から下まで眺めると、不敵な笑みを浮かべた。


「女騎士様が迷子、ねぇ?」


 男は不敵な笑みを浮かべながら、そっとアビゲイルの顎を掬う。アビゲイルは眉間に皺を寄せつつ、けれど男から顔を逸らさなかった。


「それで?何をお望みなんだ?」

「しばらくここに身を寄せさせてほしい。報酬は弾もう」


 淡々とそう述べるアビゲイルだが、先程から緊張で心臓ははち切れそうだし、踏ん張った足は小刻みに震えている。けれど表情だけは、凛々しくて強い女騎士を演じた。


「……生憎と金には困ってないんだよなぁ」


 男はそう言って目を伏せたかと思うと、ややして意地の悪い笑みを浮かべた。


「まぁ良い。泊まらせてやるよ」

「………っ、恩に着る!」


 アビゲイルはほっと胸を撫でおろしながら、笑顔を浮かべた。



 塔の中は広く、想像よりもずっと美しかった。造りも、設置された調度品の類も、一つ一つが洗練されていて無駄がない。


「おまえ、着替えは持ってるのか?」


 階段を先導しながら、男が尋ねる。すぐ後ろを歩くロゼッタではなく、アビゲイルに尋ねているらしい。


「そんなもの、持っているわけがないだろう」


 荷物は全て、捨て置いた馬車の中だ。アビゲイルも、ロゼッタも、今着ているものしか持っていない。


「その恰好では主が警戒してしまう。挨拶の前にその鎧は脱いでほしい。明日以降の着るものは、俺が何とかしよう」


 男はそう言って、自身の襟元をそっと引っ張って見せる。