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 オルニアの聖女就任と、クリスチャンの婚約は同時だった。国を挙げての祝賀行事が行われ、他国からも多数の来賓を迎える。


「こんなに大掛かりにしなくて良かったのに」

「父上も母上も嬉しいんだよ。我が国に最高の聖女を迎えられた上、末息子の結婚がようやく決まったんだから」


 そう言ってクリスチャンは目を細める。


「……なんだか、そう言う殿下の方が余程嬉しそうですけど」

「もちろん! 誰よりも喜んでいるに決まっているだろう?」


 温かな笑み。オルニアもつられて笑ってしまう。クリスチャンはオルニアを抱き寄せると、彼女の額にキスをした。


「ちょっ! ナチュラルにそういうことしないで下さい!」

「何でだ? あの男にはさせていただろう? 上書きしたいと思うのは当然だ」

「そ、れは……あれは仕事だったし」


 オルニアの頬は真っ赤に染まっていた。心臓がバクバクと鳴り響き、恥ずかしくて堪らない。


「仕事じゃないと――――俺が相手だと、どうしてダメなんだ?」

「どうしてって……そんなの分かるでしょう?」


 真っ赤な頬に唇が触れる。指が絡められ、額を重ね合わせる。羞恥心から滲む涙を舐めとり、クリスチャンは不敵に笑った。


「分からないな、俺には。きちんと言葉にしてもらわなければ」

(意地悪っ)


 温かくて優しくて、いつでも真っ直ぐなクリスチャン。そんな彼がオルニアにだけ見せる仕草が、あまりにも愛おしい。
 彼の笑顔を守りたい――――そんな風に思いつつ、オルニアは何処までも素直になれない。


「そろそろ行こう。主役が来なければ話にならない」


 そう言ってクリスチャンが手を差し伸べる。
 今夜は祝賀行事のメインイベントとして、夜会が催されている。綺麗にドレスアップをし、準備は万端。イチャついている場合ではない。


「結婚までの間に答えを聞かせてくれよ?」

「――――――善処します」


 唇を尖らせたオルニアに、クリスチャンは声を上げて笑った。