オルニアは自身の髪と瞳の色を自由自在に変えることが出来る。
 また、男たちが望む振る舞いをすることは、彼女にとって容易いことだ。淑やかな女性だろうが、愛らしい女性だろうが、活発だろうが、影のある女性だろうが、オルニアには完璧に演じることが出来る。依頼の度にまるで別人のように変身するため、誰もオルニアを追うことはできない。例えば街ですれ違ったとしても、気づかれない自信があった。


(別れたい人間と自由に別れることも出来ないなんて、貴族ってのは難儀な生き物よね)


 依頼人の殆どは貴族だ。報酬は高額だし、依頼の間の衣食住を保証してもらう必要がある。今回のように、経歴詐称が必要なこともあるし、小道具等や伝手が必要なことも多い。
 その点、セリーナは協力的で、とても良い依頼主だった。


「ねえ、本当に行ってしまうの? この別荘は使っていないし、ずっと居てくれても構わないのよ? せめて次の仕事が決まるまで、ここに居たら? お父様もそう言ってくれてるし」

「いいえ、行くわ。ここには長く居すぎた」


 セリーナ以外にも、引き留めてくれた人間は多く居た。けれど、オルニアには根無し草のような今の生き方が性に合っている。報酬もたんまりもらったし、しばらくは遊んで暮らせそうだ。


「そう。だったら、何かあったら遠慮なく私を頼ってね。あなたは私の恩人なんだから」


 差し出された手のひら。オルニアは微笑みながら、ギュッと握り返す。一抹の寂しさを胸に、前を向いた。