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「借金の返済?」

「そう」


 それはジュールとノエミが晴れて婚約者となった翌日のこと。二人はテラスでお茶を飲みながら、そんな会話を交わしていた。


「なんでもステファヌ様って、昔父にお金を借りて、そのまま連絡が取れなくなった人だったんだって」

「ふぅん……そんな人が、なんで今更?」

「それが、父から借りたお金で生活が建て直せたし、事業が成功したから『恩を返さなきゃ』って思い至ったらしいの。だけど、単にお金を返すだけだと足りないだろうからって、わたしに結婚を持ち掛けたんだって」


 思わぬ事の真相に、ノエミは両親共々目を丸くした。てっきり爵位目当ての結婚だろうと思っていたので、しばらくの間返す言葉が見つからなかったほどだ。


「『別に婚約者が出来た』なんて言って、もしかしたら納得してもらえないかもって心配していたけど、杞憂だったわ。事情をお話したら『おめでとう』と言ってくださったの」


 ステファヌの使者が持参したお金は、ノエミの父親から借りたお金だ。返金の必要は無いし、ノエミとの結婚が無くなったので、利息分として祝い金を送るとも言ってくれている。


(持参金すら用意できないって思っていたけど)


 思わぬ形で何とかなりそうだ。ノエミは口の端を綻ばせる。