(どうして……どうして…………?)


 心の中で疑問を投げかけつつ、ノエミはジュールの胸の中で泣きじゃくる。


「言っただろう? 俺はノエミの側に居たい。ノエミの隣を他の誰かに奪われたくないんだって」


 困ったような声音。ジュールがノエミの両頬を包み、そっと上向かせた。


「だけど……」

「ノエミは想いが通じ合ったらそれで良かった? 俺とずっと一緒に居たいって思わなかった?
――――俺は最初からノエミを手放す気はなかったよ」


 そう言ってジュールはノエミの顔を覗き込む。顔が真っ赤に染まり、心臓がバクバクと鳴り響いた。


「ノエミが身分とか家柄を気にして、将来のことを口にできなかったのは分かっている。だからこそ、何があっても絶対に俺が繋ぎとめるって決めてた。
他の男と結婚? させるわけがないだろう。
時間がなかったし、かなり焦ったけど、何とか間に合ったよ。
――――それとも、ノエミは俺じゃない方が良かった? 俺じゃなくて別の男と結婚したい?」


 ジュールはノエミのことを抱き締めつつ、眉間にグッと皺を寄せる。


「そんなこと、あるわけない!
だけど……だけどジュールは? ご両親に反対されたり、色々と支障があるんじゃ」

「両親のことはちゃんと説得したし、二人とも喜んでくれたよ? ノエミの両親からも、今お許しを貰った。あとはノエミが頷くだけだ」


 そう言ってジュールは、ノエミの前にゆっくりと跪く。布張りの小箱が差し出され、その中央で、大きな宝石の埋め込まれた指輪が光り輝いていた。


「ジュール――――本当に、わたしで良いの?」


 唇を震わせつつ、ノエミは疑問の言葉を口にする。


 ずっとずっと『どうして?』と尋ねることが出来なかった。


 どうしてジュールはノエミに会いに図書館へ来てくれるのか。本当にノエミで良いのか。ノエミとの将来についてどう考えているのか――――全部全部、聞きたくて聞けなかったことだ。


「やっと聞いてくれた……。
俺はノエミが良い。ノエミじゃなきゃダメだ。
だからノエミ――――俺と結婚して?」


 今にも泣きだしそうな笑顔でジュールが笑う。胸の中がじんわりと優しく、温かい。ノエミは涙で顔をぐしゃぐしゃにしつつ、ゆっくりと大きく頷いた。