「――――本当は、俺がノエミ嬢を送りたいだけなんだ」

「…………え?」


 ノエミは目を瞬かせつつ、ジュールを真っ直ぐに見上げる。
 月に照らされたジュールの顔は、夕陽に照らされているかの如く、ほんのりと紅い。ノエミの心臓がドクンと大きく跳ねた。


(そんな顔されたら勘違いしちゃうじゃない)


 ジュールは紳士だから、ノエミを放っておけないだけなのだと、頭ではきちんと分かっている。けれど、彼に名前を呼ばれて、送りたいと言われて、まるで特別だと言われているかのような気がしてきて、ノエミはギュッと目を瞑る。


「もう少し話がしたいんだけど、それでも、ダメかな?」


 そう言ってジュールは、ノエミの顔を覗き込んだ。


「っ……」


 彼が『話をしたい』と言って、断る人間などいやしない。それなのに、まるで懇願するかのような表情で見つめられ、ノエミは大きく首を横に振る。


「ダメじゃないです。わたしも、ジュール様ともう少しお話したいから」


 恐る恐る素直な気持ちを打ち明けてみれば、ジュールは「良かった」と、嬉しそうに笑う。