「俺は、君のことを不幸にするかもしれない」


 胸に巣食う大きな不安。それが消え去ることは、きっと一生無いだろう。


(それでも)


 跪き、恭しくハルリーの手を握る。ハルリーの大きな瞳がアンブラを見下ろし、キラキラと揺れる。


「それでも、俺の側に居てもらえないだろうか?」


 心からの懇願。ハルリーは目を見開き、それからゆっくりと細めた。


「わたくしが、アンブラ様の側を離れることはありません。
…………離婚なんて嫌です。絶対、嫌」


 握り返された手のひら。二人の薬指には夫婦の証たる指輪が光る。


「だってわたくし、アンブラ様のことを愛していますもの。お側に居られるだけで幸せですもの。
真面目で、誠実で、不器用で、本当はとても温かい人。人一倍、愛情に篤い人。
わたくしが深く傷つくこと、危険を恐れて、遠ざけるようにしていらっしゃったのでしょう?」

「……リヒャルトに聞いたのか?」


 ハルリーはコクリと頷く。それからいつものように微笑むと、アンブラを優しく包み込んだ。


「愛してほしいとは申しません。幸せにしてほしいとも。
けれど、わたくしがアンブラ様を愛することをお許しください。どうか、側に居させて」

「どうして君は……?」