「いいえ! 妻として当然のことですわ。
それに、アンブラ様のご友人とお会い出来て、わたくしは嬉しいのです。これまで知らなかったアンブラ様の一面を知ることができますから」


 そう言ってハルリーはアンブラの手をギュッと握る。


「そうか」


 トクンと跳ねた心臓の音に気付かない振りをし、アンブラはゆっくりと立ち上がった。


 ティーセットを挟み、向かい合う。食事はいつも一緒に取るようにしているが、普段よりもずっと距離が近い。こんな風にハルリーを身近に感じるのは、初めてのことだった。


「ふふっ」


 ハルリーが頬を染め、嬉しそうに微笑む。けれど、特に話したいことがあるわけではないらしい。静かに茶を楽しんでいる。


「今日は何をして過ごしたんだ?」


 気づけば唇が動いていた。自分の言葉に驚きつつ、アンブラはそっとハルリーを見遣る。


「リヒャルト様と一緒に、領地を回ってまいりました。領民の皆さんが温かく迎えて下さって、とても嬉しかったですわ」

「ああ……」


 そう言えばそんな報告を受けていた。リヒャルトと一緒に領地を回っても良いか、と。バツの悪さに俯きつつ、アンブラはハルリーへと向き直る。


「楽しかったなら何よりだ」

「はい! ですが次回は、アンブラ様と一緒に出掛けたいですわ。その方が今日の何倍も、何十倍も、楽しいでしょうから」


 花の綻ぶような笑み。本気でそう思っているのだろう。その事実が、アンブラの心を搔き乱す。


「――――だが俺は、あいつみたいに気の利いたことは言えないぞ」


 それどころか、歩幅を合わせてやることすら出来やしない。彼女に寄り添い、甘い言葉を囁きかけることも――――


「アンブラ様は優しいです」


 けれどハルリーはそんなことを言った。空色の瞳に映ったアンブラの姿。真っ直ぐ自分だけに注がれたその視線に、顔を背けることが出来ない。胸が騒ぎ、頬が熱くなる。涙が今にも零れ落ちそうだった。


「――――――そうか」


 ありがとうの一言すら言えない不器用な男。笑顔一つ見せない野暮な男。


「今度、時間を作ろう」


 けれどハルリーは、至極嬉しそうに微笑んだ。