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 休暇の間、リヒャルトは公爵邸に滞在することになっている。
 明るくて社交的な彼は、使用人達からの人気も高い。細やかな気遣い、労いの言葉、領地から持参した土産の数々。普通なら客人の滞在を厭う使用人達も、寧ろ歓迎ムードに包まれている。


(俺のような愛想のない主人より、本当はあいつのような人間に仕えたいのだろうな)


 彼等は皆、生まれ故郷に対する愛着があればこそ、こうしてカドガン家に仕えている。けれど、どうせなら尊敬できる人間の元で働きたいと思っている筈だ。
 しかし、アンブラにはそういった感情を、抱かせてやることが出来ない。ハルリーだけではない――――彼等のこともまた、アンブラは愛することが出来ないのだから。


「失礼します、アンブラ様」


 書斎の扉が開き、ハルリーがひょこりと顔を覗かせる。


「どうした?」


 仕事中に会いに来るのは珍しい。ぶっきら棒な言葉を返せば、ハルリーは穏やかな笑みを浮かべた。


「少し休憩にしませんか? お茶をご一緒いただきたいなぁと思いまして!」


 後に控えていた侍女達へ合図をし、ハルリーは部屋の中へと入ってくる。軽く目を見開けば、彼女はニコリと笑みを深めた。