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 その翌日のこと。
 寮から教室に着くなり、ソーちゃんはわたしを校庭へと連れ出した。


「昨日、殿下と何を話していたの?」

「あれ? ソーちゃん、気づいていたの?」


 結構距離があったし。ソーちゃんは全然こっちを見ていなかったから、わたしたちが居ることを知らないと思っていたのに。


「当然だろう? それで、何を話してたの?」


 ソーちゃんはそう言って、まじまじとわたしを見つめる。


「何って、挨拶とソーちゃ――――ううん、ソルリヴァイ様の話を」
「なにそれ?」


 眉間にグッと皺を寄せ、ソーちゃんがわたしの肩に手を置く。


「何でいつもみたいに『ソーちゃん』って呼ばないの?」

「えっ……? それは、その……いつまでも『ソーちゃん』呼びじゃ子どもっぽいかなぁって。
あと、他の令嬢みたいに上品に振る舞った方が良いのかなぁとか、ソルリヴァイ様も実は嫌だったんじゃないかなぁと思って」


 彼と出会ったのは八歳の頃。当時のわたしはどうしても『ソルリヴァイ』って名前がうまく発音できなくて。仕方なく『ソーちゃん』って呼び出したのが始まりだった。

 そんな経緯に甘えて、いつまでも仇名で呼び続けていたわけだけど、昨日のソーちゃんの反応を見るに、本当は嫌だったのかもしれないなぁとか。わたしももっと、令嬢らしく振る舞った方が良いんだろうな、なんて思ったんだけど。


「ミラの馬鹿」


 その瞬間、わたしは何故か、ソーちゃんにギュッて抱き締められていた。