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 エルベアトは憤っていた。
 先日、キーテの父親に、正式に結婚の申し込みをした。
 初めは淡い恋心だった。けれど、数か月間の交流を経て、彼女への想いは確固たるものに変わっている。キーテだって、彼と同じ気持ちだと、そう思っていたというのに。


(婚約を受け入れられないだって!?)


 確かにエルベアトは、事前にキーテの了解を取ったわけではない。プロポーズは改めて――――堂々と、キーテを外に連れ出してからしようと、そう思っていた。

 けれど、彼女は確かに自分のことを想ってくれている。エルベアトはをう確信していた。


(一体何が起こっているんだ)


 先に訪れた使者は『結婚を受け入れる』とそう言った。
 けれど、その数分後に訪れた別の使者が『結婚はとても出来そうにない』と口にする。詳しい事情を口にしないまま、使者はあっという間に帰っていった。そんなことで納得できるはずがない。




「キーテに会わせてください!」


 伯爵邸の門を叩き、エルベアトは声を張り上げる。


「あぁ……! エルベアト様」


 屋敷の中で、使用人たちが慌ただしく動いている。何かがあったことは間違いない。彼を迎え入れた顔見知りのものに問いただせば、キーテが体調を崩し、かなり危ない状態なのだと言う。
 制止も聞かず、エルベアトは階段を駆け上がった。キーテの部屋は把握している。扉を開けると、枕辺でデルミーラが泣き崩れていた。


「どうして! どうして!? どうして神様は、いつもキーテだけに試練を与えますの? 折角、素敵な縁があって、これから幸せになれるっていう時に、どうしてこんな風にキーテを苦しめるの!?」


 デルミーラの叫びを聞きながら、父親や使用人たちが涙する。ベッドの上に横たわったキーテは青白く、酷く苦し気に喘いでいた。


「こんな状態では、エルベアト様の求婚を受け入れられませんわ! それどころか、一生結婚なんて出来ない! なんて可哀そうなキーテ! あまりにも気の毒な――――」

「退いてください」

「きゃっ! エッ――――――エルベアト様!? ちょっ、ちょっと…………!」


 エルベアトはデルミーラが座っていた場所を奪い取ると、急いでキーテの手を握る。