「君に一目惚れをしたって言ったら、信じてくれる?」


 真摯な瞳。ドクンドクンと心臓が跳ねる。火が出そうな程に顔が熱く、フワフワとして落ち着かない。それは、ありとあらゆる身体の不調に慣れたキーテにとっても、生まれて初めての経験だった。


「私に、ですか?」

「そうだよ」

「姉さまじゃなくて?」


 常に美しい姉の隣にいるために霞みがちだが、キーテとて、大層愛らしい容姿をしていた。大輪の花のような美しさはないものの、華奢な身体といい、儚げな笑みといい、男の庇護欲を大いに擽る。本人に自覚はないものの、昨夜の夜会でも、幾人もの男たちがキーテのことを目で追っていたのだ。


「うん。俺はもっと、キーテ嬢のことが知りたい」


 頬を撫でられ、キーテの背筋がゾクゾクと震える。
 エルベアトに遊び人との噂はない。寧ろ真面目過ぎるぐらいだと専らの評判だ。そんな彼が、瞳を潤ませキーテに迫っている。戸惑ってしまうのは当然だった。


「怖がらせたいわけじゃないんだ。だけど、逃がす気も無い。キーテ嬢にも、俺を意識してほしくて」


 彼からそんな風に請われて、『嫌』と言える令嬢は、それ程多くないだろう。
 第一、このまま嫁き遅れれば、近い将来、父親から『不良債権』扱いされてしまうのは確実だ。病弱であることを知ってなお、こんな風に言ってくれる相手が今後出てくるとは、キーテにはとても思えない。

 か細い声で「はい」と答えれば、彼は満足そうに笑った。