「政略結婚の相手に最適、だったっけ。ミラはポジティブで良いよねぇ」

「……殿下が良いと思ったところで、ソーちゃんに響かなきゃ意味無いですけどね」


 くそう、アルバート殿下め。
 彼は底意地が悪い人なので、全く褒められている気がしない。


「アプローチする相手を僕に変えてみる? そうしたらすぐに響くよ」


 殿下はそう言って、ニコニコ笑いながらわたしの頭を撫でる。


「謹んでご遠慮させていただきます。わたしじゃ王太子妃は務まりませんよ」


 十七歳になる殿下には未だ婚約者が居らっしゃらない。王家が妃に相応しい女性を探しているのはわたしも聞き及んでいるけど、幼い頃からの付き合いなので、単に妹のように扱われているだけだ。


「そう? だけど、君と政略結婚をするメリットを聞くに、十分当てはまっているように思うんだけどなぁ」

「いえいえ。あれはソーちゃんに対してだからこそ言えたことであって、殿下にはとてもとても」


 だってわたしは、ソーちゃんと一緒に居たいだけだもの。そのための手段が結婚というだけ。自分が政略結婚の相手として最適だって誰にでも言える程、自惚れてはいない。積み重ねてきた努力だって全部、ソーちゃんに向けたものだし。


「しかし殿下。やっぱり男性は、あれぐらい慎ましい女性の方が好みなのでしょうか?」


 視線の先にはソーちゃんと、数人の令嬢。彼女達はソーちゃんを『ソルリヴァイ様』と呼び、己を過度に売り込むこともなく、いと優雅に微笑んでいる。
 ソーちゃんだっていつもの無表情じゃない。少しだけど微笑んでいて、とても心穏やかではいられない。


「どうだろう? 僕は積極的な女性の方が好きだけど」

「そうですか……。いや、そうですよね」


 結局のところ、ソーちゃんの心はソーちゃんにしか分からないのだ。
 会えない間ソーちゃんにはソーちゃんの世界があって。その中にはわたしは入ってなくて。彼にはもう、心に決めた結婚相手が居るかもしれないのに。


(ソーちゃんの馬鹿)


 完全に自分勝手だけど、そう呟かずにはいられなかった。