(けどまぁ、貴族に恩を売っておいて損はねぇ、か)


 魔術科の不動のトップとして君臨しているエーヴァルトだが、あくまで平民の身分だ。今後の人生を考えれば、伝手は多い方が良い。見た目よりもずっと、堅実な性格をしている。

 何より、エーヴァルトはひどく退屈していた。才能が突出しているが故、周りには友達やライバルと呼べるような人間はいない。言い寄ってくるのはいつも、似たような少女ばかりだ。ほんの短期間、普段とは違うことをしてみるのも悪くはない。


「良いけど」

「本当ですか?」


 エーヴァルトの返事に、グラディアは瞳を輝かせた。ひどく純粋で、無垢な表情。エーヴァルトの取り巻き連中とは正反対の少女だ。


「良いけど(ルビ)! 絶対俺にマジになるなよ? 面倒ごとは嫌いだ」

「なりません! 絶対絶対、あり得ませんわ」


 そう言って満面の笑みを浮かべるグラディアの額を、エーヴァルトは指で弾いた。無邪気なだけに、何となく腹が立った。