(素敵な人だったなぁ)
快活な笑顔。けれど繊細な気遣いを見せる彼は、キーテが暮らす狭い世界では想像も出来ない程、魅力にあふれた男性である。
公の場であんな粗相をしでかしたため、デルミーラはこれまで以上に過保護になる筈だ。屋敷から出ることができない以上、彼と会うことは、今後二度と無いだろう。小さなわだかまりを抱えつつ、キーテは自室のバルコニーに立つ。
今頃彼は屋敷の門を抜けた頃だろうか――――。そう思ったその時だった。
「キーテ嬢」
エルベアトの声が聞こえ、キーテはキョロキョロと視線を彷徨わせる。
(あっ、いた!)
数メートル離れていても分かる満面の笑み。彼は手を振りながら、こちらに向かって駆けてくる。
「お帰りになられたんじゃ……」
そう口にした途端、彼は地面を勢いよく蹴り上げ、キーテの前に浮かび上がった。初めて目にする魔法。羽が生えているかのように軽やかだ。
驚きに目を丸くしていると、エルベアトはニコリと笑みを浮かべる。
「驚かせてすまない。もう少しキーテ嬢と話したかったんだ」
「私と、ですか?」
「うん。ダメかな?」
フルフルと首を横に振れば、エルベアトは満足そうにバルコニーへと腰掛ける。何故だか胸がドキドキした。
「先程はすみませんでした。姉は少々過保護な所があって。私に外出をさせたがらないんです」
「そうか。……うん、本当に残念だったなぁ。折角キーテ嬢を口説くチャンスだと思ったのに」
「…………へ?」
思わぬ返しに、キーテは目を丸くする。エルベアトは茶目っ気たっぷりに笑うと、キーテの手をギュッと握った。